「簿冊型ファイリング」のところで少々お時間をいただき過ぎておりますが、論考の執筆にあたってはかなり幅広く関連ありそうな資料を読み漁っています。「ファイリング(システム/マネジメント)」に関しても今まで10冊以上の書籍に目を通してきましたが、その中で一番印象に残ったのは、既に編集室だよりNo.52(2019年6月21日)で紹介済の次の一節でした。
「この図より、一概にどちらがよいとも決めかねる。よくあるのは何が何でもフォルダー方式を採用される組織があるが、管理する文書のニーズや使い勝手により複合して活用されることをお薦めする」
簿冊型とバーチカル型の長短所比較を図表にお纏めになられた(p.32)上で、そう括られた城下直之さんの著書「これからの文書管理 ファイリングマネジメント」(日刊工業新聞社、2000年)は、20年前の刊行物です。当時バーチカル優位論一色だったと推察される中で、よくぞここまで書き込まれたものだ、と感心しました。その後フォルダー方式(バーチカル型ファイリング)についていろいろ知るにつけ、今では、私自身、城下氏のおっしゃる通りだと確信しています。
ところで本書は、冒頭「記録を残す意義」から書き始められています。今回の論考を執筆するにあたり、私が最も気にしたのも「記録」という概念です。対象となる読者像や歴史的価値の有無・大小などに拘らず、書かれたものは全て「記録」として括ってよいのではないか、ということに思い至ったとき、頭に浮かんだのが、「ヒトは記録する動物である」というフレーズでした。他の動物とヒトが違うところは「記録する」ということ。ここに、これまでも、そしてこれからのヒトの進化の鍵が宿っている、という想いを強く持ったのです。
同じ言い回しをネット上での検索では発見できませんでしたが、「人間はその背後に記録を残す唯一の動物である」という言葉には行き着きました。ドイツの美術史家エルヴィン・パノフスキー(1892-1968)のものとして、池野絢子先生(京都造形芸術大学)が、エッセイ中(webマガジン「アネモメトリ」)に紹介されておられました。
https://magazine.air-u.kyoto-art.ac.jp/essay/2640/
今回執筆中の論考とは本旨が異なるため、論考中では全く触れませんが、以下、備忘録として「記録(言葉・文字)/人類の歴史と進化」ということを纏めてみました。下記4冊の書籍を中心に調べて書き上げました。解釈違いや思い違いなどあるかもしれません。その折はご容赦下さい。
それにしても、昨今の記録の扱いは異常極まりない。隠蔽・改竄なんでもあり。うまく新陳代謝が進まないと、退化する一方ではないでしょうか? 今回の命がけの提訴に基づく審議過程で、「公文書」の「文書管理」というものが、少しでも良い方向に正されていくことを切に祈念しています。
< 記録(言葉・文字)/人類の歴史と進化 >
ヒトとチンパンジーの共通の祖先から人類が分かれたのは、700万年ほど前と考えられている。最初の人類である猿人が「直立二足歩行」をし始めたことが分岐の開始点。この直立二足歩行こそが、その後の人類の進化に大きく貢献したようだ。
両手が自由に使えるようになったことから、道具を作ったり使ったりするなど、いろいろなこと(仕事)ができるようになった。肉食が容易になり、栄養価の高い食物の摂取が、消費エネルギーの巨大な脳の活性化にも繋がった。
また、直立二足歩行が、喉頭と声帯の構造を変え、ことばの発声を可能にしたことも重要である。言葉を発明するより50万年以上も前から、人類は有節音声言語を発生できる声道を備えていたわけだ。
やがて社会の中での意思疎通を可能にする知能の必要性から、言語が発明された。一たび言語が発明されたら、社会全体がそれを受け入れざるをえなくなるのは当然の理であろう。そして言語のない生活から言語のある生活に転換すると、認知能力にも実行能力にもとてつもない飛躍が起こった。文化を持ち、脳は、相乗的に益々活性化・巨大化・進化していった。
文字が生まれる前、人間は情報をすべて頭の中に記憶した。しかし、すべてを記憶することも、それらを正確に他の誰かに伝えることも、難しいことだった。そのような状況下で、文字が、情報を伝え、それを空間的或は時間的に離れた人間に伝えるものとして生まれた。文字は一人の人間や一つの社会によって発明されたものではない。異なる時代に、様々な場所で、自然に生まれてきた。そのようなことから、人間の脳には「言語本能」が備わっているとも言われている。言語の潜在能力が、現在の全人類に生得的に備わっている、というのだ。
○ 河野礼子監修「人類の進化大研究 700万年の歴史がわかる」PHP研究所(2015年)
○ 埴原和郎「人類の進化 試練と淘汰の道のり━未来へつなぐ500万年の歴史」講談社(2000年)
○ Ian Tattersall「現生人類への道 私たちはいかにして人間になったか」p.120-127(別冊日経サイエンス『人間性の進化 700万年の軌跡をたどる』馬場悠男編、日経サイエンス社、2005年)
○ カレン・ブルックフィールド「「知」のビジュアル百科13 文字と書の歴史」あすなお書房(2004年)
文書管理通信編集室 樹令(いつき・れい)
2020年3月31日 |