新元号が公布されました。「令和」。私事で恐縮ですが、まさかのペンネーム1字ビンゴ!身の引き締まる思いです。HP「文書管理通信」の、たかが週一刊編集室だよりですが、地方公共団体で働いていらっしゃる皆様、そしてその結果として皆様のお客様である地域の人達に少しでもお役に立てるよう、精いっぱい頑張っていこうと決意を新たにしました。
さて、ここ数日、私の余暇は、2011年(平成23年)にタイムスリップしています。過日震災関連の書籍・資料などを調べている時に、昨年夏、真山仁さんが「シンドローム」(上/下)を講談社から上梓されていることを知りました。2巻合わせて924頁、ご存知ハゲタカ鷲津政彦氏が活躍する小説です。サラリーマン時代、僅かの期間ですが、IR(投資家向け広報)を併任した時期があります。買収対象になりうる企業体だったこともあって、その間は結構刺激的な毎日でした。その少し後にダイヤモンド社から「ハゲタカ」が出版され、興味深く読んだ記憶があります。そのシリーズの集大成だ、というような案内にも惹かれ、読み始めました。ちょうど今、上巻を読み終えたところです。
余談ですが、震災関連小説に門田隆将著「死の淵を見た男吉田昌郎と福島第一原発」(角川文庫)もあります。こちらは読まずに、原作として現在製作が進んでいる映画(主演・佐藤浩市、共演・渡辺謙)「Fukushima50」の封切りを待ちたいと思っています。
さて、この2011年は、文書管理の視点からは、「公文書等の管理に関する法律」、所謂「公文書管理法」が施行された年として一つのターニングポイントになっています。「文書と記録 日本のレコード・マネジメントとアーカイブズへの道」(高山正也監修、樹村房刊、2018年)によると、過去、紙文書に関わると思料される法律として、
プロダクト・ライアビリティという製造物責任法(1995年;平成7年)
裁判所に文書提出命令権のある民事訴訟法の改正(1999年;平成11年)
情報公開法(2001年;平成13年)
個人情報保護法(2003年;平成15年)
が施行され、中でも情報公開法の施行が一番効果があり、<「文書管理をやらなければという気に一回はさせたのではないでしょうか>と記されています。
その情報公開に関しては、2019年2月22日の編集室だよりで紹介した平成21年度公文書講演会(2009年10月30日、沖縄県庁)で、後藤仁先生(当時神奈川大学教授、元神奈川県庁)も紹介されている()ように、国に対して自治体がずっと先行していました。施行前に、既に全国47都道府県全部といくつかの先進的な市区町村が条例を作って運用していたというのが実態です。
このような歴史的背景に鑑みるとき、少し古いですが、当文書管理通信がNo.11およびNo.12という2号にわたって纏めた「地方自治体におけるファイリングシステム」(レビューはこちら())をご一読いただくことは決して無駄ではないと思います。
概要を私なりに纏めると、
1) 日本におけるファイリングシステムの歴史
@ 昭和30年代、昭和の大合併を乗り越えるための米国直輸入の
ファイリングブーム
A 転職社会といわれるように組織の構成メンバーが次々変わって
いくことに順応した米国仕様との不整合による崩壊
B 昭和50年代以降コンピューターの急速な普及に伴うファイリング
システムの再構築
C 一部自治体を除き、再崩壊
2) 日本にファイリングシステムを定着させるためのポイント
@ 「人手の確保」
A 「コストの確保」
B 電算支援ファイリングシステムの"効果的な"活用
なお、2)に関して、本文中には触れられてませんが、これらの克服のために、アウトソーシングなどの手段を有効に活用することは、選択肢の一つとして当然考慮すべきでしょう。
そして、この2011年に発表されたのが「ファイリング・システムと文書の秩序維持について−埼玉県立文書館における歴史的資料の整理業務から−」(大石三紗子;文書館紀要第24号(2011.3)p.37-51)。ここには、ファイリングシステムに関して、非常に示唆的なことが記されているように思いました。
一般的に、ファイリングシステムというのは、米国由来のバーチカルファイリングを指すものです。バーチカルファイリングは便利な面が多くある半面、「フォルダーには文書を挟み込むだけであるため、文書が物理的に固定されず、保存されてきた秩序が容易に入れ替わる可能性や、紛失・脱落の可能性がある」(前掲紀要p.37)という大きな問題点を抱えています。既に編集室だより(2019年3月15日)で触れたように、阪神・淡路大震災に遭遇した兵庫県庁では、簿冊形態でしっかり保管されていたので、文書に係る復旧作業が容易であったとされています。
近年、簿冊ファイリングの欠点ばかりが取り上げられているように見受けられますが、自然災害の多い日本では、バーチカルの良さを取り込みながら簿冊ファイリングをブラッシュアップし、電子技術の進展を活かして、アウトソーシングを有効活用していくことが、人的・財政的余裕が少ない中小自治体におかれましては、一つの解になっていくのではないか、との感を強くしています。勿論その前提として、適切なファイル基準表に基づく、文書のライフサイクルマネジメントがあっての話ですが・・・。
最後になりましたが、私は歴史が苦手です。高校でも殆ど勉強しませんでした。大学受験の際には、たまたま地理の問題を見て、高校受験の際勉強した範囲でかなり解けそうだったため、そちらに乗り換えた結果、ぎりぎりなんとか合格した過去があります。
そんな私ですが、渡邊主幹から、「日本人は識字率が高い。それもかなり古くから。なら、江戸時代の行政文書はどのようになっていたのだろう?また、欧米に比べて情報公開がなぜこんなにも遅れたのだろう?」との問を提示されています。確かに、江戸時代でも識字率はすごく高かったようなことがネット上では確認でき、いろいろ疑問が湧いてきました。紙などの媒体のことも含め、日本を中心に歴史の勉強を少しばかり始め出したところです。
そんな折、1週間ほど前、ネットサーフィンの最中に、気になるフレーズを発見しました。「万葉集がもてはやされる時代は乱世だ」です。今回の新元号の典拠が万葉集とわかったので、急ぎ原本をあたりました。毎日新聞2018年4月21日に掲載されていました。万葉学者中西進先生に対する花澤茂人記者による取材記事です。その中で中西先生曰く、「古今和歌集以降の『美』を追及した歌集に対して、万葉集は『命』を追及している。人間が生きていることが価値。曇りない生命観があふれているんです。」とあります。公布日、いろいろな媒体で報じられていた内容よりも、かなり深いなぁ、と感心しました。
明後日には、北海道知事選挙、道議会議員選挙があります。争点に対して逃げずに、まずは自論をぶつけて欲しい。そして議論を重ねていく過程で、オール北海道としての新たな発展を図っていって欲しい。折角の改元のトキ、新しい時代を、皆の力を合わせて築いていって欲しい、と切に祈念・期待しています。
「文書管理通信」編集委員見習い 樹令(いつき・れい)
2019年4月5日 |